科学者たちは1919年5月の皆既(かいき)日食で初めて重力レンズ効果を観測しました。このことは今ではよく知られていることです。なぜならばこの観測でアインシュタインの一般(いっぱん)相対性理論が正しいことが証明されたのでした。ブラジル北東部のソブラルやアフリカ西海岸沖のプリンシペ島へ行った観測チームは、それぞれが同じ皆既日食を観測して、おうし座の恒星(こうせい)が、本来あるはずの位置からずれて見えることを確かめました。これは太陽のもつ重力によって恒星からやってくる光が曲げられたからです。
バードウォッチングをしたことありますか? 鳥がとても高い木の上にいたり、とても遠いところにいたら、色とか形とかがはっきりわかりませんね。ものが遠くになればなるだけ、私たちにはそれが見えにくくなるからです。そういうときは双眼鏡(そうがんきょう)があればいいですね。
天文学者たちも同じことを感じています。銀河や星などでとても遠くのものは、とっても小さく、とってもかすかに見えるので、それらがどんなふうになっているかを知ることは、極端(きょくたん)に難しくなります。それに、より遠くの宇宙を見るということは、より過去にさかのぼった宇宙の姿を見ることにもなります。これは光が私たちに届くのに時間がかかっているためです(光は1秒間に30万キロメートルという信じられないくらい速いスピードで宇宙をやって来るのに!)。ですから科学者たちは、銀河の小さくてかすかに見えるもののほとんどは、とても遠くにあって、宇宙がビッグバンで始まったすぐ後にできたものだろうと考えています。
ある科学者チームが、RXCJ0600-z6という、とても遠くにある小さな銀河からやってきた光を、なんとかうまく観測できるようにしました。この銀河は宇宙ができたばかりでまだとても若いころ、だいたい10億才になったころに生まれたものです(現在の宇宙の年れいは約140億才)。科学者たちは観測にアルマ望遠鏡を使ったのですが、同時に「天然のレンズ」にも助けてもらいました。天然のレンズとは天然の望遠鏡と言ってもいいのですが、きょ大な銀河集団RXCJ0600-2007がつくりだす重力によって、遠くからやってくる光が曲げられる現象を利用したのです。
実際、その銀河集団は信じられないくらい大きく(天文学者にだってどれだけ大きいのかわからないくらい、実に重さは太陽の1000兆倍!)、それによってできた強い重力は、まわりの空間(時空)を曲げてしまい、向こうの天体からやってきた光は曲がって強められます。ちょうど天然の巨大なレンズか、あるいは虫眼鏡がそこにあるように、やってきた光が曲がるのです(このビデオで確かめて下さい)。
この働きのおかげで、遠くの赤ちゃん銀河RXCJ0600-z6の光は強まりました。でもその重力による働きは、赤ちゃん銀河の形をゆがめてしまっています。そこで天文学者たちはハッブル宇宙望遠鏡や地上のVLT望遠鏡などのデーターも使って、そのゆがみを取り除き、もとの銀河の形を再現しました。
その結果、天文学者たちは何を発見したと思いますか? なんと、この赤ちゃん銀河は回転していたのです。ちょうど遊園地のメリーゴーランドのように!
これはとても奇妙(きみょう)なことです。なぜかというと、若い銀河の中にあるガスは決まった一つの方向に流れたりせず、むしろバラバラな方向に動くはずだからです。ちょうどキツネが入ったニワトリ小屋の中で、こわがったニワトリが大さわぎしていろいろな方向ににげまどうようにです。かすかな光をくわしく観測することによって、天文学者たちは、初めて赤ちゃん銀河の内部の動きを実際に見ることができたのでした。
研究者たちは、この銀河のようすがもっとよくわかれば、銀河の進化とか初期の宇宙についての重要なカギが見つかると期待しています。それは私たちが宇宙の始まりであるビッグバンをさぐることに一歩近づくことになります。
この写真は、NASA/ESAハッブル宇宙望遠鏡がとらえた銀河の大集団RXCJ0600-2007と、その天然レンズの働きで3つに分かれて見えている赤ちゃん銀河RXCJ0600-z6(赤色)を合成したものです。
画像提供:ESO/NAOJ/NRAO アルマ望遠鏡, ニールス・ボーア研究所 藤本 氏 他, NASA/ESA ハッブル宇宙望遠鏡
科学者たちは1919年5月の皆既(かいき)日食で初めて重力レンズ効果を観測しました。このことは今ではよく知られていることです。なぜならばこの観測でアインシュタインの一般(いっぱん)相対性理論が正しいことが証明されたのでした。ブラジル北東部のソブラルやアフリカ西海岸沖のプリンシペ島へ行った観測チームは、それぞれが同じ皆既日食を観測して、おうし座の恒星(こうせい)が、本来あるはずの位置からずれて見えることを確かめました。これは太陽のもつ重力によって恒星からやってくる光が曲げられたからです。