これまで見つかった最も遠い銀河の記録は、ハッブル宇宙望遠鏡が発見した134 億年の距離にある GN-z11 が持っています。HD1 の距離が確認されれば、最も遠い銀河の記録をぬりかえることになります。
天文学者のチームが、これまで見つかった中で最も遠いかもしれない銀河を発見しました。この「HD1(エイチ・ディー・ワン)」という名前の銀河は、私たちから約135億光年の距離(きょり)にあるようです。だとしたら、138億年前に宇宙が始まったすぐ後(3億年後)の銀河といえます。
HD1が発見され、始まってから3 億年しかたっていない、ずっとずっと昔の宇宙に、こんな明るい銀河がもうできていたとわかったのです! もし HD1 の距離がジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって正しいと確認されれば、人類がこれまでに発見した中で、まちがいなく最も遠い銀河になります。
宇宙が始まって間もないころ、いつどのように銀河ができたのか、天文学者は知りたいのです。そのため、遠くの銀河を探して、昔の宇宙を調べようとしているのです。光の速度はどこでも同じで、かつ、無限ではありません。遠い天体の光ほど、長い時間をかけて地球に届きます。例えば10億光年の距離にある天体からは、10億年前に出発した光が、10億年かけてやっと今、私たちの地球に届いているのです。言いかえると、10億光年先から届いた光を観測すると、10億年前の様子が見えるのです。天文学者は遠い天体を観測し、はるか昔の宇宙を調べているのです。
35億光年の距離にあると思われる HD1 は、ものすごい数の「遠い銀河こうほ」の中から見つけ出されました。天文学者の国際チームが、ハワイにあるすばる望遠鏡とUK赤外線望遠鏡、南米チリにあるVISTA(ビスタ)望遠鏡、そしてスピッツァー宇宙望遠鏡による合計1200時間以上の観測データを分析し、探し出したのです。
これは、わらの山から一本の赤い針を見つけるような、大変な作業でした。たった一個の「赤い」銀河 HD1 を見つけるために、天文学者は70万個以上の天体を調べる必要があったのですから。宇宙がぼう張しているため、全ての天体は私たちから遠ざかっています。しかも、遠い天体ほど、速く遠ざかっているので、光が「のびて」より赤く見えるのです。この現象を「赤方偏移(せきほうへんい)」といいます。
HD1 はとても明るく、こんな明るい銀河が宇宙が始まって間もなくできていることに、天文学者は非常におどろいています。現在の銀河形成の理論では、こんなに明るい銀河が、こんな昔にどのようにできたかを説明できないのです。次のステップは、HD1 のような銀河がどのように作られたのか、あるいは HD1 は実は銀河ではなくて活発なブラックホールなのではないか、を明らかにすることです。研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測すると、そのナゾが解けるのではないかと期待しています。
画像:VISTA望遠鏡の観測データから作成した写真。中心を拡大した写真の中央に見える赤い天体が HD1。
クレジット:播金優一(はりかねゆういち)らによる研究グループ (Harikane et al.)
これまで見つかった最も遠い銀河の記録は、ハッブル宇宙望遠鏡が発見した134 億年の距離にある GN-z11 が持っています。HD1 の距離が確認されれば、最も遠い銀河の記録をぬりかえることになります。
この記事は日本の国立天文台からの報道発表によっています。